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PDB:3p0g

タンパク質名

β2アドレナリン受容体(活性状態)

生物種

ヒト

生物学的役割

β2アドレナリン受容体(beta-2 adrenergic receptor)は、カテコールアミン系の化合物(アドレナリン、ドーパミンなど)の結合により、Gタンパク質を通じて、アデニル酸シクラーゼを活性化する膜タンパク質である。動物のゲノムには、こうしたGタンパク質を活性化する受容体膜蛋白質が多数存在し、Gタンパク質共役受容体(G-protein-coupled receptor; GPCR)ファミリーと呼ばれている。β2アドレナリン受容体は、Gタンパク質共役受容体ファミリーのモデルタンパク質として扱われており、多くの研究者により詳細な分子メカニズムが調べられている。

Gタンパク質共役受容体の作用メカニズムは、図1のように考えられている。Gタンパク質共役受容体は、他の分子が結合していない場合は、不活性状態(R状態)である。しかし、細胞外からアゴニスト(作動薬)と呼ばれるリガンド分子が結合し、細胞内からGタンパク質へテロ三量体が結合することにより、活性状態(R*状態)に変化し、それにより、Gタンパク質へテロ三量体のGαタンパク質は結合していたGDPを解放し、新たにGTPを結合する。GTPを結合したGαタンパク質は、Gβ、Gγタンパク質と解離し、アデニル酸シクラーゼに結合して活性化し、環状AMP(cAMP)の生成を向上させる。

なお、細胞外からのリガンド分子が結合していなくても、Gタンパク質へテロ三量体があれば、低いながらもある程度の活性(基礎活性; basal activity)があることが知られている。Gタンパク質共役受容体の活性に影響を与えるリガンド分子は、基礎活性をより向上させる場合、アゴニスト(作動薬; agonist)と呼ばれる。逆に、基礎活性をより低下させる場合、逆アゴニスト(逆作動薬; inverse agonist)と呼ばれる。

図1.Gタンパク質共役受容体によるシグナル伝達の概念図

逆アゴニストとGタンパク質共役受容体の不活性状態(R状態)の結晶構造は、2007年にKoblikaとStephensのグループによって決定された(PDBコード:2rh1)。2011年1月にKoblikaのグループによって活性状態(R*状態)の結晶構造がNature誌に報告された。本記事では、この活性構造を紹介する。

立体構造の特徴

3p0g3p0g_x3p0g_y

Gタンパク質共役受容体の親水性のループ領域は、柔軟性が高く、結晶化をじゃまするため、ループ部にT4ファージのリゾチームというタンパク質が人工的に導入されている。ただし、その立体構造は結晶解析で明瞭には見えなかったため、このエントリーにはリゾチームの原子座標は記載されていない。受容体を活性状態にするためには、アゴニストのリガンド分子とGタンパク質へテロ三量体が必須である。Koblikaらは、アゴニストとしてBI-167107という低分子化合物を加えている。さらに、Gタンパク質へテロ三量体の代わりに、ナノボディ(nanobody)という軽鎖を欠いた特殊な抗体分子を導入している。この分子はラマという動物をβ2アドレナリン受容体分子で免疫することで作成された。最終的に、このエントリーには、β2アドレナリン受容体(αへリックスの多いタンパク質)、受容体内部に結合したBI-167107というアゴニスト分子(PDBでの3文字表記はP0G)、ナノボディ(βシートの多いタンパク質)の三つの分子の原子座標が記載されている。

不活性状態と活性化状態の構造の違い

2007年に決定された不活性(R)状態の構造(PDBエントリ:2rh1)と、2011年に決定された活性状態(R*)の構造(PDBエントリ:3p0g)を比較した結果を以下に示す。

まず、タンパク質全体の構造変化を図2に示す。特に細胞内部側の構造が大きく変化していることがわかる。第5、第6へリックス(TM5,TM6)が外側に動き、第3、第7へリックス(TM3,TM7)が内側に動く。特に第6へリックス(TM6)の構造変化は大きく、末端部で11Å構造が変化する。この部分はナノボディと相互作用している部位に相当する。

図2.不活性状態(2rh1)と活性状態(3p0g)の全体構造の違い

不活性状態(2rh1)から活性状態(3p0g)への構造変化を示す動画。UCSF Chimeraのモーフィング機能を用いて作成した。

次にリガンド結合部位の構造変化を図3に示す。不活性状態の構造(2rh1)には、カラゾロール(carazolol; PDBでの3文字表記はCAU)という逆アゴニスト分子が結合しており、活性状態の構造(3p0g)には、BI-167107(PDBでの3文字表記はP0G)というアゴニスト分子が結合している。細胞内部側の大きなへリックスの移動に比べると、ごくわずかな構造の違いでしかない。結合に関与しているアミノ酸はほとんど変わらず、側鎖の回転程度の小さな構造変化が多い。最も大きく構造が変化するアミノ酸は、TM5に属している207番目のセリンであり、Cα原子が2.1Å移動している。

図3.不活性状態(2rh1)と活性状態(3p0g)のリガンド結合部位の構造の違い

不活性状態(2rh1)から活性状態(3p0g)への構造変化を示す動画。UCSF Chimeraのモーフィング機能を用いて作成した。

以上をまとめると、活性状態と不活性状態の最も大きな構造の違いは、細胞内部側の膜貫通へリックスの角度の違いである。この大きな変化は人工的に加えたナノボディと相互作用している部位で起こっており、ナノボディがGタンパク質へテロ三量体と同じ役割を果たしているなら、Gタンパク質へテロ三量体の存在がこのへリックスの構造変化に不可欠であるのだろう。一方、リガンドの結合部位では、逆アゴニストとアゴニストでの構造の違いは小さい。しかし、この小さな構造の違いが、細胞内部側の膜貫通へリックスの構造の再構成を誘起し安定化している可能性がある。

タンパク質構造データバンク(PDB)

参考文献

原論文

Rasmussen, S.G. , Choi, H.J. , Fung, J.J. , Pardon, E. , Casarosa, P. , Chae, P.S. , Devree, B.T. , Rosenbaum, D.M. , Thian, F.S. , Kobilka, T.S. , Schnapp, A. , Konetzki, I. , Sunahara, R.K. , Gellman, S.H. , Pautsch, A. , Steyaert, J. , Weis, W.I. , Kobilka, B.K. Structure of a nanobody-stabilized active state of the b2 adrenoceptor. Nature, (2011) 469:175-180 PubMed:21228869.

その他

著者: 川端 猛


English version:PDB:3p0g