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PDB:3jrs,3jrq

タンパク質名

ABA受容体PYL1(ABA結合型)
ABA結合PYL1とABI1の複合体

生物種

シロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana)

生物学的役割

アブシジン酸(ABA)は、植物体の乾燥ストレスに対する適応や種子の成熟と休眠の制御において中心的な役割を担う植物ホルモンである。ABAを介したシグナル伝達経路はリン酸化/脱リン酸化システムによって制御されている(図1参照)。通常の生育環境(非ストレス条件)では、ABAシグナル伝達経路で働くタンパク質脱リン酸化酵素2C(PP2C)がリン酸化酵素SnRK2の自己リン酸化を妨げている。これにより下流へのシグナル伝達が遮断され、ABAシグナル伝達経路はオフの状態に保たれている。植物に乾燥などのストレスが加わるとABAが細胞内に蓄積し、ABA受容体によって感知される。ABAと結合した受容体は、PP2Cの脱リン酸化活性を阻害する。これによりSnRK2はリン酸化状態が維持されて活性型として働きだし、転写因子のAREB/ABFをリン酸化して活性化する。AREB/ABFは乾燥ストレスなどの耐性付与に働く遺伝子群の転写を促進し、植物はストレス耐性を獲得する。

ABAシグナル伝達経路のオフ(左)とオン(左)
(図1) ABAシグナル伝達経路のオフ(左)とオン(左)

ABAを結合したABA受容体PYL1の結晶構造とPP2Cタンパク質の1つであるABI1がさらに結合した複合体の結晶構造の決定により、ABA依存的にABA受容体がPP2Cを阻害するメカニズムが明らかになった。

立体構造の特徴

3jrs3jrs_x3jrs_y
3jrq3jrq_x3jrq_y

PYL1の構造は、7つのβストランドが逆平行に並んで大きく湾曲したβシートとそれを取り囲む3つのαへリックスから構成されている(図2参照)。これはSTARTタンパク質ファミリーに共通のへリックス-グリップフォールドである。STARTタンパク質は各分子に特徴的な疎水性のキャビティをもち、その中に疎水性の低分子化合物を結合するという特徴をもつ。PYL1も分子内部に大きなキャビティをもち、その中に1分子のABAが完全に閉じ込められた状態で結合している(図2参照)。ABAがPYL1のキャビティ内に入るためには、PYL1に何らかの構造変化が生じなければならず、ABAと接触するβ3-β4(ゲート)ループとβ5-β6(ラッチ)ループがキャビティの「蓋として機能すると考えられる。この2つのループの構造変化(開閉)はPYL1のABAフリーの立体構造(PDB ID: 3kay)との比較からも明らかとなっている。

ABAを結合したPYL1の構造
(図2) ABAを結合したPYL1の構造

この閉じた2つのループがABI1との主要な結合表面を形成することが、ABAを結合したPYL1とABI1の複合体構造の決定によって明らかにされた(図3参照)。

ABAを受容したPYL1とABI1の複合体構造
(図3) ABAを受容したPYL1とABI1の複合体構造

ABAを受容したPYL1がABI1に結合するときには、ABI1のTrp300がPYL1のβ3-β4ループとβ5-β6ループの間に形成された疎水性ポケットにはまり込み、さらに水分子を介してABAおよびPYL1の2つのループと水素結合を形成する(図4参照)。この相互作用によりPYL1とABI1の複合体が安定化される。一方、PYL1のβ3-β4ループはABI1の活性部位に「栓」をするように入り込み、このループ上のSer112はABI1の触媒残基であるGlu142と水素結合を形成する。その結果、ABI1の脱リン酸化活性は阻害される。こうして、ABAを受容したPYL1はABI1を競合的に阻害し、ABAシグナル伝達経路をオンにする。

PYL1とABI1の相互作用
(図4) PYL1とABI1の相互作用

ABA受容体PYL1およびABI1との複合体の構造解析は、ABAシグナル伝達経路の制御の鍵となる仕組みを解明した。これは、乾燥ストレス環境下でも生育可能な植物の創生と植物にストレス耐性を付与する化合物の開発に大きく寄与するものと期待される。

タンパク質構造データバンク(PDB)

参考文献

原論文

  • Miyazono, K. Miyakawa, T. Sawano, Y. Kubota, K. Kang, H.J. Asano, A. Miyauchi, Y. Takahashi, M. Zhi, Y. Fujita, Y. Yoshida, T. Kodaira, K. Yamaguchi-Shinozaki, K. Tanokura, M.; "Structural basis of abscisic acid signalling"; Nature; (2009) 462:609-614 PubMed:19855379.

その他

  • Umezawa, T. Nakashima, K. Miyakawa, T. Kuromori, T. Tanokura, M. Shinozaki, K. Yamaguchi-Shinozaki, K.; "Molecular basis of the core regulatory network in aba responses: sensing, signaling and transport"; Plant Cell Physiol.; (2010) 51:1821-1839 PubMed:20980270.
  • Tanokura, M. Miyakawa, T. Miyazono, K. Kubota, K. Sawano, Y.; "Machinery for Activating the Drought-Tolerance Response in Plants"; PF Activity Report; (2009) 27: 50-51
  • 宮川拓也 "アブシシン酸シグナル伝達の構造基盤"; バイオイメージング; (2010) 19: 3-8
  • UniProt:Q8VZS8

著者: 田之倉 優、宮川 拓也


English version:PDB:3jrs,3jrq