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PDB:3al8

タンパク質名

セマフォリン6A/プレキシンA2 複合体

生物種

マウス(ハツカネズミ Mus musculus)

生物学的役割

神経細胞は軸索と呼ばれる“手”を伸ばして、他の神経細胞とつながっているが、軸索の伸張は様々なガイダンス因子によって制御されている。セマフォリンは、そのような軸索のガイダンス因子の一つであり、軸索伸張の反発因子として発見された。セマフォリンは、神経細胞にあるプレキシンと呼ばれる受容体と相互作用し、この反発のシグナルを伝えると考えられている。セマフォリンとプ レキシンは、配列が相同なセマドメインと呼ばれる領域を細胞外に有し、シグナル伝達時には、互いのセマドメインを介して結合する。受容体として働くプレキシンの細胞内領域には、GTP アーゼ活性化タンパク質(GAP)と相同性のあるドメインが存在し、セマフォリンとの結合によって、このGAP ドメインが活性化され、細胞内にシグナルが伝達される。

近年では、セマフォリンとプレキシンは、神経細胞軸索の伸張のガイダンス以外にも、もっと多彩な機能をもち、さまざまな生命現象に関わっているということが報告されている。例えば、免疫応答にもセマフォリンとプレキシンは関わっており、免疫細胞を活性化する役割を担っていることが分かっている。また、血管新生や骨代謝などにも、セマフォリンとプレキシンによるシグナル伝達が重要な役割を担っていることを明らかになっている。このため、セマフォリンとプレキシンの働きが異常をきたすことが病気をひきおこすこともあり、実際に、ガンや自己免疫疾患、アトピー性皮膚炎などにセマフォリンとプレキシンが関与していると考えられている。

立体構造の特徴

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セマフォリン6A(Sema6A)とプレキシンA2(PlxnA2)のSema ドメインとPSI ドメインを含む断片の結晶構造をFig 1.に示す。

Fig.1 Sema6A とPlxnA2 の単量体構造
セマドメインのβ-プロペラーの羽根を7 色で色分けした。Extrusion 1 と2 を黒色で示し、PlxnA2 のBulge は赤色で示した。

Sema6A とPlxnA2 は、配列に相同性があるだけでなく、立体構造も非常によく似ている。N 末端側のSemaドメインは、7 枚の羽根からなるβ-プロペラー構造をとっており、1 枚目と2 枚目の羽根の間、そして、5 枚目の羽根の内部に長いループ領域があり、これらを Extrusion1, 2 と呼んでいる。また、PlxnA2 には、3 枚目の羽根の内部にも特徴的な挿入配列があり、この領域はβ-プロペラーの側面から大きく突きだしているためBulge と呼ばれる。PSI ドメインはジスルフィド結合によって固く結びつけられた球状の構造をとっており、β-プロペラーの6 枚目の羽根の側面に結合している。

このように構造のよく似たSema6A とPlxnA2 は、Fig.2 に示すように2:2のヘテロ4 量体構造を形成する。

Fig.2 Sema6A/PlxnA2 複合体
Sema6A とPlxnA2 は2 対2 の量比でヘテロ4 量体を形成する。2 分子のSema6Aは、プロペラーの面と面を合わせた「Face-to-face」型の2 量体構造をとる一方で、2 分子のPlxnA2 の間には相互作用はなく、それぞれ独立に別々のSema6Aに結合している。

Sema6A はプロペラーの面と面を向き合わせた「Face-to-face 型」の2 量体構造をとる一方で、PlxnA2 は1 分子ずつ独立にSema6Aの2 量体に結合する。Sema6A とPlxnA2 は、互いにβ-プロペラーの側面を用いて結合しており、上述のExtrusion1, 2 やBulge などの領域が相互作用面を形成している。この2:2の複合体構造は、Sema4D/PlexinB1 複合体やSema7A/PlexinC1複合体など、これまでに解析された結晶構造全てに共通しており、全てのクラスのセマフォリンとプレキシンが同じような複合体を形成する可能性が高い。

この2:2の複合体構造に基づいて、プレキシン受容体の活性化に関して、様々なモデルが提唱されているが、それらは大きく二つに分けられる。一つ目は、Janssen らによるクラスター化モデルであり、2:2の複合体が膜上でクラスター化することによって、シグナルが伝達されるというものである。プレキシンの細胞外領域には、セマドメイン、PSI ドメインに続いて、茎状のストーク領域が存在し、この領域でプレキシン同士が相互作用する可能性が示唆されている。そして、もう一つは、セマフォリンとの結合前後でのプレキシンの会合状態の変化が、受容体の活性化を引き起こすというモデルである。Nogi らはPlxnA2 が単独ではホモ2 量体構造を形成することを報告しており、ホモ2 量体からヘテロ4 量体へと構造変化することが、細胞内に連結されたGAP ドメインの活性化につながるというモデルである( Fig. 3 に模式図を示す)。

プレキシン受容体の配向の変化による活性化のモデル
Fig.3 プレキシン受容体の配向の変化による活性化のモデル
プレキシンは単独では「Head-on」型のホモ2 量体構造をとっているが(左図)、セマフォリンと遭遇することによって、ホモ2 量体を解離させてヘテロ4 量体の複合体を形成する(右図)。この会合状態の変化によって、プレキシン細胞外領域の配向は大きく変化し、さらに茎状のストーク領域を介して、細胞内のGAPドメイン同士の配置も大きく変化することになる。一連の構造変化によって、GAPドメイン同士がある決まった配置をとることがGAP活性の亢進へとつながり、細胞内シグナル伝達の引き金になると考えられる。

Sema7A/PlxnC1 複合体を解析したLiu らもプレキシン細胞外領域が溶液中で多量体化する傾向があることを報告している。そして、セマフォリンとの結合によって、2つのプレキシン分子が決まった配置をとることがGAP ドメインの活性化へとつながるという説を提唱している。

タンパク質構造データバンク(PDB)

参考文献

原論文

  • Nogi, T. Yasui, N. Mihara, E. Matsunaga, Y. Noda, M. Yamashita, N. Toyofuku, T. Uchiyama, S. Goshima, Y. Kumanogoh, A. Takagi, J.; "Structural basis for semaphorin signalling through the plexin receptor."; Nature; (2010) 467:1123-1127 PubMed:20881961.

その他

  • UniProt:O35464 UniProt:P70207
  • PDB:3afc セマフォリン6A 単独の結晶構造
  • PDB:3al9 プレキシンA2 単独の結晶構造
  • PDB:3oky Janssen らによって解析された同じセマフォリン6AとプレキシンA2複合体の結晶構造
  • PDB:3nvq Liu らによって解析されたセマフォリン7A とプレキシンC1 複合体の結晶構造

著者: 禾 晃和


English version:PDB:3al8