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PDB:3C7N

タンパク質名

熱ショックタンパク質Hsc70/Hsp110の複合体

生物種

ウシ/酵母

生物学的役割

熱ショックタンパク質(Hsp : Heat shock protein)とは、高熱ストレスに応答して発現するタンパク質群の総称である。高熱以外のストレス要因(e.g. 重金属、活性酵素、エタノールなど)に応答する場合も多いので、より広い意味で、ストレスタンパク質とよばれることもある。Hspはおおよその分子量(kDa)により、複数のファミリーに分類される。(Fig.1参照)。

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(Fig.1) 分子量によるHspの分類

タンパク質が各々の機能を発現するためには、天然の3次元構造へ折り畳まる(フォールディングする)必要がある。一方、自ら天然構造へフォールディングできないタンパク質や、間違った立体構造へフォールディングしたタンパク質などは、(再び)天然構造へ折り畳まるためにシャペロンとよばれるタンパク質の助けを必要とする。大部分のシャペロンはHspであることが知られている(*1)。Hspの中でも良く研究されている3つのファミリー(Hsp60, Hsp70, Hsp90)のシャペロン機構を以下に示した。(Fig2,3,4参照)。

Hsp60 Hsp70
(Fig.2) Hsp60 (Fig.3) Hsp70
Hsp90 Fig.2 : GroELはGroESと協調することにより、シャペロンとして
機能する
(詳細は、PDB:1AONを参照)

Fig.3 : Hsc70はHsp40やBag1と協調することにより
シャペロンとして機能する

Fig.4 : Hsp90はp23と協調することにより、シャペロンとして機能する
(詳細は、今月の分子No.108:Hsp90を参照)
(Fig.4) Hsp90

これらの機構に共通するHspの特徴は、ATP存在下でコシャペロン(捕因子)と協調することにより、シャペロンとしての機能を発揮する点である。しかし、これらの機構の詳細な部分に関しては不明な点が多い。例えばHsp70のシャペロン機構では、Fig.3に示したようにBag1がHsc70に結合することによりADP/ATP交換が起こることは分かっているものの、実際に二つのタンパク質がどのように相互作用することによりADP/ATP交換が起こっているかは不明である。Hsp110はBag1と同様、Hsc70のコシャペロンとしてADP/ATP交換に関与していることが分かっており、今回得られたHsc70とHsp110の複合体結晶構造はHsp70ファミリーのATP/ADP交換機構を明らかにした。

(*1) "シャペロン = Hsp"と誤解され易いが、Hsp以外のシャペロンも存在する。 (例: PDB:1SG2PDB:1W26)

立体構造の特徴

3c7n3c7n_x3c7n_y

ここに示すのは、Hsc70とHsp110の複合体構造である(*2)。Hsc70とHsp110はそれぞれ、ヌクレオチド結合ドメイン(NBD)と基質結合ドメイン(SBD)の二つのドメインから構成されている。Hsp110のSBDは更に、α構造サブドメイン(SBDα)とβ構造サブドメイン(SBDβ)に分かれている。(Fig.5A参照)。今回の複合体構造では、それぞれのHspのNBD領域に1分子ずつADPが結合している。

5 (Fig.5) Hsc70とHsp110の複合体構造

(A) : 複合体構造を正面から見たとき

(B) : 複合体構造を真下から見たとき

(C) : (B)のサーフェイスモデル。点線で囲まれた部分はATP/ADPが通過する孔を示す

二つのHspは、互いのNBDをしっかりと結合させ、安定した複合体を形成している。二つのNBDの間には、ATPを格納できる広さを持つ孔が見つかっており、この孔は二つのNBDのATP結合部位に直結している。(Fig.5C参照)。今回の複合体では、孔のHsp110のNBD側が閉じているのに対し、Hsc70のNBD側は開いた状態であることが確認された。この観測は、Hsc70 NBDに結合しているADPは、放出される寸前の状態にあることを示唆する。更に、Hsp110の長く伸びたSBDαがHsc70のNBDの一部に結合して引っ張ることにより、孔のHsc70 NBD側を開いた状態に固定していることが分かった。この事実は、Hsp SBDαとHsc70 NBDの結合に寄与する残基(Fig.5の赤で示した残基)の一部を置換すると、シャペロン活性が低下することにより裏付けられている。以上の観測から、Hsp110 SBDαはHsc70 NBDの孔を開いた状態に固定し、Hsc70のADP/ATP交換を円滑に保つ役割を担っていることが明らかとなった。

(*2) 今回の複合体を構成するHsc70とHsp110はそれぞれ異なる種から得られたものである。(i.e. Hsc70はウシ由来であるのに対し、Hsp110は酵母由来)。原論文中では、酵母のHsp110はウシのHsp110と高い配列一致率を示し、ウシのHsp110として十分代用できることを確認している。

タンパク質構造データバンク(PDB)

参考文献

原論文

  • Schuermann, J.P. Jiang, J. Cuellar, J. Llorca, O. Wang, L. Gimenez, L.E. Jin, S. Taylor, A.B. Demeler, B. Morano, K.A. Hart, P.J. Valpuesta, J.M. Lafer, E.M. Sousa, R.; "Structure of the Hsp110:Hsc70 nucleotide exchange machine"; Mol.Cell; (2008) 31:232-243 PubMed:18550409.

その他

著者: 伊東 純一


English version:PDB:3C7N