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PDB:2roe

タンパク質名

高度好熱菌Thermus thermophilus HB8 TTHA1718遺伝子産物

生物種

Thermus thermophilus HB8(好熱性細菌)

生物学的役割

TTHA1718タンパク質は、80℃以上の高温環境で生育可能な高度好熱菌から単離された金属結合タンパク質であるが、その詳細な機能はまだ未知である。この構造の特に注目すべき点は、タンパク質それ自体の機能や構造的特徴ではなく、むしろその構造決定手法にある。これまでのタンパク質構造決定法は、大きくX線結晶構造解析、核磁気共鳴(NMR)、電子顕微鏡解析によるものであったが、いずれも細胞を破砕、単離・精製し、さらにタンパク質の結晶作製等の工程を必要としたため、様々な人工的処理がなされた後のタンパク質構造を映し出していた。こうした処理は、タンパク質が実際に働いている細胞内の環境とは著しく異なるため、従来法で得られた構造が細胞内の構造を正確に反映しているかは不明であり、タンパク質がその他の高分子とどのように相互作用しているかを立体構造の観点で解析するには不十分であった。 一方、近年in-cell NMRと呼ばれる生きたままの細胞中で、タンパク質を原子解像度で解析可能な方法が生み出され、特に注目を集めている。これまでのin-cell NMRでは、細胞内タンパク質由来のNMRシグナルの観測までは可能であったが、本構造は、このin-cell NMR法をさらに応用し、生細胞内での立体構造決定に成功した世界初の例である。この構造決定で開発された様々な技術を用いれば、これまで以上に自然に近い状態、すなわちタンパク質が実際に働く状態の立体構造、運動性、分子間の相互作用が解析可能となり、真のタンパク質機能解析が可能となると期待されている。

立体構造の特徴

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2rog2rog_x2rog_y

今回決定された、生細胞中の構造(PDB ID:2ROE、上図上列)と比較のために従来法により単離・精製して別途決定されたin-vitro 構造(PDB ID:2ROG、上図下列)は、いずれも4本のストランドからなるβシートと2本のαへリックスからなっており、全体の構造が非常に類似していた。2つの構造のr.m.s.d差は、わずか1.16Åであった。両者のわずかな構造の差異およびその違いを補佐する化学シフト差は、主にαへリックスとβストランドをつなぐ推定金属結合領域に見られた。この差異は、いわゆる分子クラウディングの影響を反映している可能性の他に、当該領域と生細胞内の金属との相互作用を反映している可能性が考えられる。実際、金属結合に関与すると考えられるC11S/C14SとC11A/C14Aの変異体タンパク質を作製し、化学シフト変化を観測したところ、野生株ではin-vitroとin-cellで異なる化学シフトであったものが、変異体ではほぼ同一の値を示した。

タンパク質構造データバンク(PDB)

参考文献

原論文

  • Sakakibara, D. Sasaki, A. Ikeya, T. Hamatsu, J. Hanashima, T. Mishima, M. Yoshimasu, M. Hayashi, N. Mikawa, T. Walchli, M. Smith, B.O. Shirakawa, M. Guntert, P. Ito, Y.; "Protein structure determination in living cells by in-cell NMR spectroscopy"; Nature; (2009) 458:102-105 PubMed:19262674.

その他

著者: 池谷 鉄兵、伊藤 隆


English version:PDB:2roe