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PDB:2RIO

タンパク質名

イノシトール要求タンパク質-1(Ire1)

生物種

酵母

生物学的役割

真核細胞において、分泌タンパク質や膜タンパク質の多くは小胞体(ER : Endoplasmic Reticulum)内部で修飾を受けた後、リフォールディングが起こる。正しい立体構造へ折り畳まったタンパク質は被覆タンパク質により覆われ、ゴルジ体以降の分泌系へ輸送される。(詳細はPDB:2PM7を参照)。一方、正しい立体構造へ折り畳まることのできなかったミスフォールドタンパク質は欠陥品として小胞体内部に蓄積される。このような状態は小胞体ストレス(ERストレス)とよばれる。ERストレスに対して、小胞体が示す応答は主に3つ挙げられる(Fig.1)。

1 (Fig.1) ERストレスに対する主な応答

(1) ERAD : ER Associated Degradation
小胞体内のミスフォールドタンパク質を細胞質へ送り返し、ユビキチン-プロテアソーム系により分解する。
(詳細はPDB:2QYUを参照)。

(2) UPR : Unfolded Protein Response
小胞体内のミスフォールドタンパク質を減らすための経路。タンパク質翻訳の抑制機構、フォールディングを補助するシャペロンタンパク質の合成機構、などを促進させる。

(3) アポトーシスの誘発
ERストレスが一定期間継続すると、細胞は自ら死滅する戦略をとる。これは神経変性疾患、癌疾患と深い関連がある。(1)ERADと(2)UPRは、この最悪のシナリオを防ぐための回避策と考えることもできる。

(2)のUPR経路において、ERストレスの変換器として機能するタンパク質はこれまでに3種類発見されている。

  • Inositol-requiring protein-1 (Ire1)
  • Activating transcription factor-6 (ATF6)
  • PKR-related ER kinase (PERK)

いづれも小胞体膜貫通型タンパク質であり、膜の内部に位置する小胞体内部位と、膜の外部に位置する細胞質部位から構成される。これら3種類の変換器タンパク質は、ミスフォールドタンパク質を共通の入力信号として認識するが、それぞれの出力信号は異っている(Fig.2)。例えば、Ire1の出力信号は、XBP1 mRNAのスプライシング反応を促進させることである。Ire1の小胞体内部位は既に結晶構造が決定されており、ミスフォールドタンパク質に応答して二量体化することが判明している。しかし、それに伴って細胞質部位がどのようにして二量体化し、どのような機構によりイントロン除去を行っているかは不明のままであった。それらのメカニズムを理解するために、Ire1細胞質部位の結晶構造が決定された。

2 (Fig.2) UPR経路におけるIre1の役割

Ire1は小胞体内部位でミスフォールドタンパク質を感知し、活性化(二量体化)する。活性型Ire1の細胞質部位はXBP1mRNA(XBP1タンパク質をコードするmRNA)のイントロン部分を除去することにより、スプライシング反応を促進させる。成熟したXBP1 mRNAはXBP1タンパク質に翻訳され、細胞核内でシャペロンタンパク質やERADに関わるタンパク質をコードする遺伝子を活性化させる。

立体構造の特徴

2rio2rio_x2rio_y

Ire1細胞質部位の二量体結晶構造が2.4Åの解像度で決定された(Fig.3)。それぞれの単量体はN端側のKinaseドメインと、C端側のKENドメイン(Kinase-Extension Nucleaseドメイン)から構成されている。さらに、Kinaseドメインは二つのサブドメインに分かれている : N端側の小さなN-lobeとC端側の大きなC-lobe。N-lobeとC-lobeの間の溝にはADPが結合している。

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(Fig.3) Ire1 細胞質部位

二量体は主に二つの領域で結合している: N-lobe/N-lobe結合面(Fig.4)、KENドメイン/KENドメイン結合面(Fig.5)。二つの結合面におけるアミノ酸残基の相互作用は、二量体の構造安定化に強く寄与している。これらの残基を置換すると、Ire1の機能は著しく低下することが確認されている。

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(Fig.4) N-lobe/N-lobe結合面 (Fig.5) KENドメイン/KENドメイン結合面

Lee,Kらが行った一連の実験により、Ire1は複数のプロセスを経て二量体化することが分かった。 彼らが考察したIre1の二量体化メカニズムを以下に記す。

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(Fig.6) Ire1 二量体化のメカニズム

Step1:
ミスフォールドタンパク質に応答して、Ire1小胞体内部位が二量体化する。
この影響がIre1細胞質部位に波及し、二つののKinaseドメインが互いに接近する。

Step2:
A-loopが自己リン酸化されることにより、ADPがKinaseドメインに結合することが可能となる。

Step3:
ADPが結合する影響により、KENドメインなどの残った領域の二量体化が完成する。
これにより、Ire1はリボヌクレアーゼ活性状態となる。

Ire1のリボヌクレアーゼ触媒部位は、KENドメインにある4つの残基(Y1049、R1056、N1057、H1061)付近に位置すると考えられている(Fig.7)。これらの残基配置は、tRNAスプライシング・エンドヌクレアーゼ (PDBjMine:2GJW) のリボヌクレアーゼ触媒部位に存在する4つの残基配置と良く一致する。この事実は、この領域こそがIre1のリボヌクレアーゼ触媒部位であることを示唆する。Ire1によるmRNAの触媒機構の詳細を知るには、Ire1 KENドメイン/RNA複合体の結晶構造が待たれる。

7 (Fig.7) Ire1 KENドメインのリボヌクレアーゼ活性部位

黄色で示した4つの残基は、mRNAからのイントロン除去に直接関与していると考えられる。
赤い破線は今回のX線結晶解析では決定できなかったB-loopを示す。

タンパク質構造データバンク(PDB)

参考文献

原論文

  • Lee, K.P. Dey, M. Neculai, D. Cao, C. Dever, T.E. Sicheri, F.; "Structure of the dual enzyme ire1 reveals the basis for catalysis and regulation in nonconventional RNA splicing."; Cell(Cambridge,Mass.); (2008) 132:89-100 PubMed:18191223.

その他

著者: 伊東 純一


English version:PDB:2RIO