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PDB:2CME

タンパク質名

SARSコロナウイルス ORF-9bタンパク質

生物種

ヒト重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルス

生物学的役割

ウイルスは生命活動に必要な遺伝子を一部しか持たず、宿主生物の機構を利用して増殖などを行う生物である(非生物と分類される場合もある)。ウイルスには、複数の開始点を使って1つの遺伝子配列から2種以上のタンパク質を作るものもいる。遺伝子は3ヌクレオチドで1つのアミノ酸を指定しているため、読み取り枠の取り方で3通りの読み取り方ができる。

例えば、ATGTCTGSTSSTGGSCCC というDNA鎖の場合、
ATG-TCT-GAT-AAT-GGA-CCC-C...という読み取り枠と、
A-TGT-CTG-ATA-ATG-GAC-CCC...という読み取り枠が考えらるが、
それぞれ開始コドンであるATGを含んでおり、それぞれ別のタンパク質に関する情報となりうる。 なお、このような別の読み取り枠を代替オープンリーディングフレーム(alternative open reading frame、alternative ORF)と呼ぶ。これができた経緯として、次のようなモデルが考えられている。 元々、1つの読み取り枠しか利用されていなかったが、偶然間違った読み取り枠から翻訳されたペプチドができた。最初は立体構造を持たなかったが、やがて部分的に立体構造を持って何らかの働きを持つようになった。配列が乱れた領域はそういった経緯の名残りとして残っている。

重症急性呼吸器症候群(SARS)の病原体として知られるSARSコロナウイルス(SARS-CoV)も代替オープンリーディングフレームを持つウイルスの1つで、外殻(カプシド)などをコードする遺伝子領域の1つN遺伝子にはORF-9aとORF-9bとの2つの読み取り枠がある。 ORF-9aはウイルスの構造体であるヌクレオカプシド(Nタンパク質)をコードしている。一方ORF-9bはウイルス集合(virus assembly、ウイルスが宿主細胞で複製されて再び遺伝物質と外殻を組み合わせる過程)において、ウイルスの材料が小胞に入り込む時の目印として働いているのではないかと考えられている。

立体構造の特徴

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ここに示すのはSARSコロナウイルスのORF-9bタンパク質と脂質分子の一部との複合体の結晶構造である。このタンパク質はホモ二量体で、2つのサブユニットの間に疎水性の穴を作り、その中に脂質を結合させる性質がある。リガンドは炭素を25個程度持つ脂肪酸であり分子の端が入り口付近でひっかかって存在するが、ここでは炭素10個を持つ中央部分しか示されていない。

実際この疎水性のトンネルに結合するのは、宿主細胞の細胞内小胞の膜にあるリン脂質であり、宿主細胞で複製されたウイルスの部品(遺伝子とカプシド)が小胞に入り込む足がかりを提供していると考えられている。このモデルによると、ウイルスの部品が小胞に入り込んだ後、ウイルス粒子が組み立てられ、エキソサイトーシスで細胞外に排出される。

また、タンパク質分子の長軸方向に、90°回転した向きでタンパク質が連なり、ねじったロープのような構造になっている。なおこの際、隣り合ったサブユニットは、一方のサブユニットのβ4・β5が作る環と、もう一方のサブユニットのβ6・β7が作る環がかみ合ってつながっている。この連なった構造が宿主細胞の小胞表面を覆うと考えられる。

タンパク質構造データバンク(PDB)

参考文献

原論文

  • Meier, C. Aricescu, A.R. Assenberg, R. Aplin, R.T. Gilbert, R.J.C. Grimes, J.M. Stuart, D.I.; "The Crystal Structure of Orf-9B, a Lipid Binding Protein from the Sars Coronavirus."; Structure; (2006) 14:1157-1165 PubMed:16843897.

その他

著者: 工藤 高裕


English version:PDB:2CME